2011年1月10日月曜日

城が学び舎だった ―― 城郭高校探求譚 ――――― 岡山朝日高等学校-1

藩校のフロントランナー
 
 城郭高校の第一回をどこにするか、ちょっと悩んだ。順当なのは北海道から沖縄へ南下するか、あるいは沖縄から北上する方法だ。何となく水戸黄門漫遊記っぽくていいかなとも思ったが、国内の城郭高校はかなりある。テレビドラマのようにテンポよく進むわけでもないので、めぼしい高校を挙げていくだけでも時間がかかる。なのでやめることにした


  あとはいかにも城郭高校にふさわしい出で立ち、佇まい、歴史性みたなところで納得してもらえる、もしくはしてもらえそうな高校をランダムに挙げていくしかない。それはそれで大変だろうな、と思いつつ登場願ったのが岡山県立岡山朝日高等学校である  。

2007年に校舎を
新築した岡山朝日高校。
城郭の面影はない。
[県立岡山朝日高校HPより]
  岡山朝日高校は、生徒数1000名(2010全日制の知る人ぞ知る岡山県きっての名門進学校である。地方の県立高校の場合、県庁所在地にある歴史の長い進学高校は名門校が多い。入試の難易度はトップクラス、県はもとより国を代表する政財界、文化人を多数輩出している。岡山朝日高校もその例外ではない  。

たとえば学者では、その偉業を讃え記念賞を開設された現代物理学の父と言われる仁科芳雄(以下敬称略)や東京帝国大学法学部の法学部長を務め、最高裁判所長官、吉田茂内閣では文部大臣を務めた法学者の田中耕太郎、マスコミなどでよく発言をする精神病理学の小田晋、ロボットスーツの発案者で自ら会社を起こしたサイバーダイン社長で筑波大大学院教授の山海嘉之など独創、ユニークな人財を輩出している

ほかにも文芸分野ではジャーナリストでもあった薄田泣菫、「博士の愛した数式」などの作品で知られる作家の小川洋子、「火垂るの墓」や「じゃりン子チエ」などアニメで知られる映画監督の高畑勲などがいる

実業界ではVANジャケットの創業者で日本にIVYファッションを根付かせたデザイナーの石津謙介、日本郵船の社長の宮原耕治、東京電力会長の田村滋美など大物が続々。また語学系の硬派出版社でありながら女優・宮沢りえのヌード写真集を発行し、話題を呼んだ朝日出版社の創業者の原雅久は、愛校心からか高校名を社名にしている

政治家では、前参議院議長の江田五月、衆議院議員の片山虎之助など、現役の大物もいる。極めつけは首相となった岸信介だろう
まさに綺羅星のごとく人財を生み出している高校である

岡山市には同校を含めて「岡山五校」と言われる岡山市内を中心とした人気県立校があるが、その中でも人気は抜群である。だがこういった事情を鑑みて1回目に登場願ったのではない。この高校が日本の公立高校では最も歴史があるとされる高校であるからである

旭川を臨む岡山城(烏城)。
信長、秀吉と天下統一が果たされた後に
宇喜多秀家によって全面リニューアルを
受けたこともあり、
天守閣の位置はそれほど高くはない。
[岡山市HPより]
もちろん城郭高校にふさわしい条件は満たしている。なにせその原点は岡山藩主・池田光政の藩校「花畠教場」に遡るのだ。創設は1641年。実に360年前である。藩校は江戸時代、諸藩が藩士の子弟の教育のために設けた直轄教育機関である。幕府の施策もあり、江戸時代を通して全国に広がり日本の学力の底上げに貢献したが、花畠教場は幕府が各地に整備を促す前に開かれた藩校のフロントランナーなのである

池田光政は当時、水戸藩主・徳川光圀、会津藩主・保科正之と並ぶ名君(江戸初期の三名君)とされ、学問の振興と藩内経済の安定のため産業振興に尽力したとされる


学問においては花畠教場のほか、庶民のための手習所と呼ばれる学校を数百か所設けている。後にこの財源をめぐって息子の綱政と対立しているが、光政はこれに対して、手習所を統合し、いわば庶民の小学校ともいうべき「閑谷学校(しずたにがっこう)」を新たに設けている。

閑谷学校は建築に32年も要した本格的な学校で、校舎となる講堂のほか、校庭や校門、池も整備されるなど、現在ある公立学校に比べても実に贅沢なつくりとなっている。写真で見るだけでも光政の教育に賭けた想いの強さがひしひしと伝わってくる

光政が優れているのはこうした教育現場の整備もさることながら、その場を支え発展させていくための制度を創り上げたことだ。光政は自分、もしくは子孫が国替となり他藩に移ることになっても、閑谷学校が存続できるよう学校予算を藩の予算から独立させていたのだ

なんでもかんでも事業仕分けしてしまうどこぞの政治家にはちょっと耳のイタイ話かもしれない。もちろん教育予算を聖域としてだらだらと金を垂れ流すようでは困るが……

光政がこうした施策を取ったのは、どうも自身の来し方によるところが大きいと思われる
(つづく)

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