日本に城好きは多い。「一国一城の主」の喩えがあるように、城を持つことはいわゆる男子の本懐でもあった。だが今の時代、一般人が城を持つことは叶わない。なのでたいがいは一軒家という住居を建てたり、購入して満足する。広い土地のない大都会ともなれば、戸建てではなくマンションという集合住宅がふつうになってくる。そっちのほうが便利だし、これからはそのほうがいいという住宅評論家やエコノミストもいる。だが住宅所得第一次世代といわれる30代前半を見る限り、いまだ戸建てを希望する人が6割以上占めている。これは日本人の多くがいまだ一国一城の主という呪縛から逃れられない証でもあると思われる。
たとえばプロレスラーの藤波辰爾氏などはその1人だ。藤波氏はその夢を実現しようと見積もりをとったのである。戸建て住宅ではない。自分だけの完全な城をつくろうとしたのだ。藤波氏はプロレスの巡業行先に城郭があると必ず訪れ、写真を撮るほどの城マニアだ。気持ちはわからないでもない。しかし見積額100億円という数字にあえなくフォール負けしている。聞けば、その金額よりもその大空間をいったい誰が掃除するのかが焦点だったらしい。
また三重県伊勢市に住む井村裕保氏は、世界遺産の姫路城に魅せられ、25年の歳月をかけて23分の1のスケールモデルを完成させている。文字通り一国一城の主となったわけで、しかも世界遺産という城マニア垂涎の一城を手にしたわけだが、残念ながらそこに住まうことはできない。
それにしてなぜ日本人はこれほど城に魅了されるのであろうか。現代人にとっては城が住まうことのできない非日常空間であるということもその理由かもしれない。少なくとも100数十年前までは城は身近だった。なんせピーク時にはこの狭い国土に4万城もあったという。4万という数字は現在日本全国に展開されているコンビニエンストアの数に等しい。つまりその昔、城は街のコンビニだったのだ。もちろん弁当やスイーツが売られているわけではない。中に立ち入ると「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれる店員もいない。ヘタに入り込めば、捕らえられて隠し牢屋に閉じ込められたり、打首になったりする、恐れおののく場所だ。でも皆城が好きなのだ。
それは城が日本人にとって身近な存在であり、日々の暮らしに深く根差し、影響を与え、また人を育ててきたものだからだ。その多くは明治維新時に壊されてしまったが、新政府下では、その城郭の一部が市役所や学校、記念公園などになったりと、地理的政治的にも新しい行政の中心的位置を占めていた。
その一つの証左が「城郭高校」ある。城郭高校とは、その歴史がその地域の城と文化的に深く関わっている主に100年程度の歴史を有する高等学校を指す。
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長野県上田高校の古城の門。 上田城址に建つこの高校は、 城主の屋敷門が現役の校門として 使われている。 [上田高校HPより] |
たとえば、校舎の一部が城の敷地の一部であったり(石川県立小松高校、兵庫県洲本高校)、実際に門や天守閣が校舎の一部として使われている(長野県上田高校、岡山県高梁高校)、あるいは校歌や応援歌に城が謳われている(青森県弘前高校、三重県上野高校、栃木県大田原高校)、高校の出自がもともと藩校であったりする(岡山県岡山朝日高校)、名前の由来が城から来ている(長野県松本深志高校)など、歴史的文化的だけでなく物理的にも深い関わりを持つところが多い。
城郭高校は耳慣れない言葉だが、我々「城郭高校探検隊」は、これを以下のように定義する。
<定義>
日本全国の歴史ある高等学校のうち、周辺に城郭、もしくは城跡があり、文化的つながりが強い高校。
文化的つながりとは――
●校舎が城郭、城址を利用して建ってる。
●校歌や応援歌などに城や、城郭、城壁、城址の名称などが使われている。
●城名(別称、あるいは城下の藩校や城主別館)が高校名についている。
●部活動や高校行事の一部が城跡、城址などを利用して行われている。
●代々の城主や藩主がその高校、もしく前身などに深く関わっている。(OB会、基金、寄付講座など)
●城、城郭、城跡、城址に関わるいわれがその高校に残っている。
●現役生が近隣のほかの高校に比べても非常にその城に愛着を持っている。
●城研究、城跡研究の組織が高校に存在する。
●現役生、OB、OGにとって城址、城跡がデートスポットになっている。
●城址、城跡が現役生、OB、OGの告白場所になっている。
●1世紀以上の歴史がある(もしくはそれに近い90年~)。
ここでは、この定義に当てはまりそうな全国の城郭高校の実態とその文化的・歴史的バックグラウンドについてレポートしていくとともに、城郭高校を全国の方々に認知していただき、その情報を得、かつ地域文化・経済の活性化のきっかけとして活用していただくことを強く願うものである。
乞うご期待されたし。
平成22年12月。城郭高校探検隊一同
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